カーボンニュートラルに向けた取り組み〜カーボンオフセット〜

「カーボンオフセット」とは

「カーボンオフセット」とは、自分や自分の組織が排出した温室効果ガスの量と同じだけ、他の場所で温室効果ガスの排出削減や吸収を行うことで、自分や自分の組織の温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にするという仕組みです。これは、自分や自分の組織では排出削減が難しい場合や、さらなる削減を目指す場合に有効な手段です。

カーボンオフセットには、国際的な仕組み(京都議定書、パリ協定など)、国内的な仕組み(J-VER、J-Creditなど)、市場的な仕組み(自主的な取引、認証制度など)があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。

「カーボンオフセット」の種類と特徴

○ 国際的な仕組み

京都議定書

京都議定書は、1997年に採択された国際的な温室効果ガス削減の枠組みです。先進国は2008年から2012年までの第一約束期間において、1990年比で温室効果ガスの排出量を5.2%削減することを義務付けられました。京都議定書では、カーボンオフセットの仕組みとして、先進国同士が排出権を取引する「排出量取引」、先進国が途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを行いその削減量を自国の目標達成に算入する「クリーン開発メカニズム(CDM)」、先進国が他の先進国で温室効果ガス削減プロジェクトを行いその削減量を自国の目標達成に算入する「共同実施(JI)」が定められました。

パリ協定

パリ協定は、2015年に採択された新たな国際的な温室効果ガス削減の枠組みです。全ての加盟国は2020年から2030年までの第一貢献期間において、自主的に決めた温室効果ガス削減目標(NDC)を達成することを約束しました。パリ協定では、カーボンオフセットの仕組みとして、先進国や途上国が自国外で温室効果ガス削減・吸収活動を行いその成果を自国のNDC達成に算入する「市場メカニズム」、先進国や途上国が自国外で温室効果ガス削減・吸収活動を行いその成果をグローバルな気候変動対策に貢献する「非市場メカニズム」が定められました。

国際的な仕組みの特徴は、各国が共通のルールや基準に従ってカーボンオフセットを行うことで、信頼性や透明性が高まることです。また、先進国や途上国が協力して気候変動対策に取り組むことで、グローバルな規模で温室効果ガスの排出量を抑えることができることです。

○ 国内的な仕組み(J-VER、J-Creditなど)

J-VER

J-VERは、日本政府が2008年から2013年まで運用していたカーボンオフセット制度です。日本国内で行われた森林整備や再生可能エネルギー利用などの温室効果ガス削減・吸収活動に対して、環境省が認証した削減・吸収量を「J-VERクレジット」として発行し、そのクレジットを取引することでカーボンオフセットを行うことができました。

J-Credit

J-Creditは、日本政府が2013年から運用しているカーボンオフセット制度です。J-VERの発展的な統合として、森林整備だけでなく、省エネルギー設備の導入や廃棄物の有効利用などの温室効果ガス削減活動に対しても、環境省や経済産業省、農林水産省が認証した削減量を「J-Credit」として発行し、そのクレジットを取引することでカーボンオフセットを行うことができます。

国内的な仕組みの特徴は、日本国内で行われた温室効果ガス削減・吸収活動に対して国が認証することで、信頼性や透明性が高まることです。また、日本国内でカーボンオフセットの市場を形成することで、気候変動対策に加えて、地域振興や雇用創出などの社会的・経済的な効果も期待できることです。

○ 市場的な仕組み(自主的な取引、認証制度など)

市場的な仕組みとは、国や政府の関与が少なく、民間主導でカーボンオフセットを行う仕組みです。自主的に温室効果ガス削減・吸収活動を行った事業者や団体がその成果をクレジットとして発行し、それを購入する事業者や団体がカーボンオフセットを行うことができます。市場的な仕組みには、自主的な取引と認証制度の2種類があります。自主的な取引とは、クレジットの発行者と購入者が直接交渉して取引する方法です。認証制度とは、第三者機関がクレジットの発行者に対して基準やルールに従って認証を行い、そのクレジットを購入者に提供する方法です。

市場的な仕組みの特徴は、国や政府の規制や制約が少なく、柔軟にカーボンオフセットを行うことができることです。また、多様な温室効果ガス削減・吸収活動に対応できることや、競争原理によってコストや品質が向上する可能性があることです。

カーボンオフセットの事例と効果

○ 日本の事例

佐川急便

佐川急便は、業界初の「カーボンニュートラル宅配便」を展開しています。車両を使用せずに、台車や自転車などでの集配を行うことでCO2を削減すると同時に、削減が困難な部分は森林保護や植林などにより創出されたカーボン・クレジットでオフセットしています。

ローソン

ローソンは、「Ponta」ポイントをカーボン・クレジットと交換することで、個人が排出するCO2をオフセットし、地球温暖化防止に貢献することを促進しています。また、店舗の省エネ化や再生可能エネルギーの導入などにより、自社のCO2排出量も削減しています。

丸井グループ

丸井グループは、シューズを中心に「カーボンフットプリント」を店頭表示し、お客様が環境にやさしい商品を選択できるような取り組みを行っています。また、商品の生産地や被災地でカーボン・オフセットを実施することで、CO2排出を削減すると同時に、地域貢献を行っています。

○ 海外の事例

ヨーロッパ

ヨーロッパでは、EU-ETS(欧州連合排出量取引制度)というカーボン・マーケットが運用されており、各国の企業は一定量以上のCO2を排出する場合は排出権を購入しなければなりません。この制度により、CO2排出量が削減されると同時に、カーボン・クレジットの取引が活発化しています。

アメリカ

アメリカでは、カリフォルニア州が先進的なカーボン・マーケットを導入しており、州内の大規模なCO2排出源は排出量上限内で排出権を取引することができます。また、森林保護や植林などによるCO2吸収プロジェクトも認められており、そのクレジットも取引されています。

カナダ

カナダでは、ブリティッシュコロンビア州がカーボン・ニュートラル政府を目指しており、州政府や公共機関は自らのCO2排出量を算定し、削減できない分はカーボン・クレジットを購入することが義務付けられています。その資金は、州内のCO2削減プロジェクトに投資されています。

カーボンオフセットの効果は、CO2排出量の削減だけでなく、森林保護や植林などによる生物多様性の保全や水源涵養機能の向上、再生可能エネルギーの普及や省エネルギーの推進によるエネルギー安全保障や経済発展など、多岐にわたります。また、企業はカーボンオフセットにより環境貢献企業としてのイメージアップや競争力強化が期待できます。


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