ゼロエミッションに向けた取り組み〜電気化〜

電気化とゼロエミッション

電気化がゼロエミッションへの鍵となるかどうかは、電気の発電源によって異なります。電気の発電源が再生可能エネルギーなどのゼロエミッション電源であれば、電気化によってCO2排出量を削減できます。しかし、電気の発電源が化石燃料などの排出ガスを出すものであれば、電気化によってCO2排出量を増やす可能性があります。

ゼロエミッション電源とは、原子力発電を含めた太陽光発電、風力発電、地熱発電、水力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギー由来の電源のことです。走行時にCO2等の排出ガスを出さない電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)もゼロエミッションビークル(ZEV:Zero Emission Vehicle)と呼ばれます。

日本では、2050年カーボンニュートラルを目指すエネルギー基本計画に基づき、再生可能エネルギーの割合を2030年に22~24%、2050年に50%以上にするという目標が掲げられています。また、非化石証書という制度を利用して、再生可能エネルギー由来の電気を購入することで、小売電気事業者や企業が自らのCO2排出量を削減することができます。

ゼロエミッションにおける電気化の重要性

電気化とは、エネルギーの使用方法を電気に切り替えることです。電気化のメリットは、エネルギーの効率利用(省エネ)や温室効果ガスの削減につながることです。

電気化の重要性は、環境にも影響します。地球温暖化問題への対応として、日本は2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出と吸収がゼロになる状態)を目指しています。そのためには、エネルギー分野の取り組みが重要であり、電力部門や非電力部門で脱炭素化された電力を活用することが必要です。

具体的には、以下のような対策が考えられます。

– 再生可能エネルギー(太陽光や風力など)の最大限導入

– 原子力発電所の安全性を確保した再稼働

– 水素やアンモニアなどを使った発電やCCUS(二酸化炭素回収・貯留・利用)やカーボンリサイクルなどのイノベーションの追求

– 高温の熱が必要な産業など電化が難しい部門で水素や合成燃料などを活用

– 家庭での節電や省エネ家電への買い替え、ピークカットやピークシフトなどの電力需要調整

産業における電気化

  • 製造業や産業プロセスの電化

製造業や産業プロセスでは、熱源や動力源などのエネルギーを電気に置き換えることで、CO2排出量を削減するとともに、生産性や品質、安全性などを向上させることができます。製造業や産業プロセスの電化には、以下のような例があります。

電気溶接

金属を高温のアーク放電やレーザー光などで溶接することで、燃料ガスや酸素などを必要としないため、CO2排出量を減らすことができます。また、溶接速度や精度、強度などを高めることができます。

電気炉

金属やガラスなどを加熱する際に、電気抵抗や電磁誘導などで発生する熱を利用することで、燃料の消費量や排ガスの発生量を減らすことができます。また、温度制御や均一加熱などが容易になります。

電気分解

水や塩化ナトリウムなどを直流電流で分解することで、水素や塩素などの化学物質を製造することができます。この場合、燃料を使用しないため、CO2排出量を減らすことができます。また、再生可能エネルギーから発電した電力を利用すれば、より低炭素化が可能です。

  • グリーンテクノロジーと電気化の連携

グリーンテクノロジーとは、環境問題の解決や持続可能な社会の実現に貢献する技術のことです。グリーンテクノロジーは、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどの新しいエネルギー源の開発や普及によって、電気化を促進する役割を果たします。また、蓄電池やスマートグリッドなどの技術によって、電力供給の安定性や効率性を高めることもできます。グリーンテクノロジーと電気化の連携には、以下のような例があります。

再生可能エネルギー

太陽光や風力など自然界に存在するエネルギー源から発電することで、枯渇や環境負荷の心配が少ないエネルギーです。再生可能エネルギーは、脱炭素化された電力を製造業や産業プロセスに供給することで、電気化を支えます。また、再生可能エネルギーは、電気分解などのプロセスによって水素やアンモニアなどの脱炭素燃料を製造することもできます。

水素エネルギー

水素は、燃焼や燃料電池などで利用することで、CO2を排出せずにエネルギーを得ることができる物質です。水素は、再生可能エネルギーから発電した電力を利用して製造することができます。水素は、製造業や産業プロセスにおいて、熱源や動力源として電気化を促進する役割を果たします。また、水素は、発電所や蓄電池などと組み合わせて、電力供給の安定化やピークカットなどにも活用できます。

蓄電池

蓄電池は、電力を化学エネルギーとして貯めたり、逆に化学エネルギーから電力を取り出したりすることができる装置です。蓄電池は、再生可能エネルギーの出力変動や需要変動に対応して、電力の調整や安定化に貢献します。また、蓄電池は、製造業や産業プロセスにおいて、省エネやピークシフトなどの目的で電気化を支援します。

スマートグリッド

スマートグリッドは、発電所や送配電網、消費者などの間で情報通信技術を活用して、電力の需給を最適化するシステムです。スマートグリッドは、再生可能エネルギーや蓄電池などの分散型電源の導入や活用によって、電力供給の効率性や信頼性を向上させます。また、スマートグリッドは、製造業や産業プロセスにおいて、需要管理や節電などの目的で電気化を促進します。

都市交通の電気化

バスや電車などの公共交通機関や個人用の自動車や自転車などを、化石燃料ではなく、電気で動かすことです。都市交通の電気化には、以下のようなメリットがあります。

温室効果ガスの排出削減

電動交通手段は走行時に二酸化炭素や有害物質を排出しません。再生可能エネルギーで充電されれば、ライフサイクル全体での排出量も減らせます。

空気汚染や騒音の低減

電動交通手段は走行時に大気汚染物質や騒音を発生しません。都市部の大気の質や生活環境を改善し、人々の健康にも良い影響を与えます。

エネルギー効率の向上

電動交通手段はエネルギー変換効率が高く、化石燃料よりも少ないエネルギーで走行できます。エネルギー消費量やコストを削減できます。

エネルギーインフラの強化

電動交通手段は蓄電池や給電機能を持ち、スマートグリッドの一部として活用できます。ピーク時に放電したり、非常時にバックアップ電源として供給したりすることができます。

以上のように、都市交通の電気化には多くのメリットがありますが、それには電動交通手段が普及する必要があります。しかし、日本では電動交通手段の普及はまだ進んでいません。その理由として、以下のような課題が挙げられます。

導入コストの高さ

電動交通手段は化石燃料交通手段に比べて導入コストが高く、充電インフラやメンテナンス設備も整備する必要があります。

航続距離や充電時間の不足

電動交通手段は化石燃料交通手段に比べて航続距離が短く、充電時間も長いため、運行スケジュールやルートに制約があります。

充電インフラの不足

電動交通手段を運行するためには、適切な場所と規模で充電インフラを整備する必要がありますが、日本では充電インフラの普及はまだ十分ではなく、運行エリアや需要に応じた配置や管理が課題となっています。

技術開発の遅れ

日本では国内メーカーによる電動交通手段の技術開発が遅れており、海外メーカーとの競争力が低いと言われています。特に中国では政府の補助金や規制などで積極的に普及を進めており、世界最大の市場を形成しています。

これらの課題を解決するためには、以下のような対策が必要です。

政策的な支援

政府や自治体は、導入コストや充電インフラ整備費用などを補助する制度や税制優遇などを通じて、電動交通手段の導入を促進することができます。また、温室効果ガス排出量削減目標や公共交通ネットワーク構築計画などを策定し、長期的なビジョンを示すことも重要です。

技術的な革新

国内メーカーや研究機関は、蓄電池のコストや性能の改善、航続距離や充電時間の短縮、蓄電・給電機能の向上など、電動交通手段の技術開発に力を入れることが必要です。また、自動運転やコネクテッドテクノロジーなどとの連携も重要です。

電気化の課題と解決策

電気化とは、エネルギーの供給や利用を電気に置き換えることです。電気化には、温室効果ガスの排出削減やエネルギー効率の向上などのメリットがありますが、同時に様々な課題もあります。

  • 電気化における課題の概要

電力供給の安定性

電気化が進むと、電力需要が増加し、供給力や送配電網の容量に余裕がなくなる可能性があります。また、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大に伴い、発電量が変動することで、系統の安定性や品質が低下する恐れもあります。

電力コストの上昇

電気化が進むと、電力市場での需給バランスが逼迫し、市場価格が高騰する可能性があります。また、再エネの導入拡大に伴い、火力発電などの調整力や蓄電池などの補完技術への投資が必要となり、コスト負担が増加する恐れもあります。

カーボンニュートラルへの対応

電気化が進むと、CO2排出量を削減するためには、発電源を脱炭素化する必要があります。しかし、現在の日本では火力発電に依存した供給構造であり、原子力発電や再エネだけではカバーできない課題もあります。

  • 技術革新と政策の役割

電気化における課題を解決するためには、技術革新と政策の両方が重要です。

技術革新では、再エネや水素・アンモニアなどのCO2フリー電源、CO2貯留・利用(CCUS)などの脱炭素技術、蓄電池やスマートグリッドなどの系統安定化技術、自動運転やコネクテッドテクノロジーなどとの連携技術などを開発・普及させることで、安定的かつ低コストで低炭素な電力供給を実現することができます。政府や自治体の政策では、補助金や税制優遇などを通じて、脱炭素技術や系統安定化技術の導入を促進することができます。また、温室効果ガス排出量削減目標やエネルギー基本計画などを策定し、長期的なビジョンを示すことも重要です。

ゼロエミッションにおける電気化の未来への展望

  • 電気化がもたらす未来のエネルギー景観

電気化により、エネルギーの供給や利用を電気に置き換えることで、以下のような未来のエネルギー景観が期待されます。

温室効果ガスの排出削減

電気化により、火力発電や自動車などのCO2排出源を減らすことができます。特に、電力源を再生可能エネルギーや水素・アンモニアなどのCO2フリー電源に切り替えることで、カーボンニュートラル(CO2排出量と吸収量が等しい状態)を目指すことができます。再生可能エネルギーや水素・アンモニアは、太陽光や風力などの自然エネルギーから生成することができるため、CO2を排出しません。また、火力発電所で発生するCO2を分離・回収して貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)技術や、工業製品やプラスチックなどの原料として利用するCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)技術も開発されており、火力発電のゼロ・エミッション化に貢献すると期待されています。

エネルギー効率の向上

電気化により、エネルギーの損失や無駄を減らすことができます。例えば、電動車は内燃機関車よりも燃費が高く、発熱や騒音も少ないです。また、スマートグリッドやデマンドレスポンスなどの技術を活用することで、電力需要と供給を最適化することができます。スマートグリッドとは、発電所や送配電網、消費者などをICT(情報通信技術)でつなぐことで、電力システム全体を効率的に制御する仕組みです。デマンドレスポンスとは、消費者が需要調整や節電をおこなうことで、ピーク時の供給不足や余剰を防ぐ仕組みです。

エネルギーセキュリティの強化

電気化により、エネルギーの自給自足度を高めることができます。特に、再生可能エネルギーや水素・アンモニアなどは、国内で生産することが可能であり、海外からの輸入に依存しなくても済みます。また、分散型発電や蓄電池などを導入することで、災害などの非常時にも安定的に電力を供給することができます。分散型発電とは、太陽光や風力などの自然エネルギーを利用して、消費地の近くで発電する仕組みです。蓄電池とは、電力を化学エネルギーとして貯めておき、必要なときに電力に戻す装置です。

ゼロエミッション社会の実現への一歩

CO2やメタンなどの温室効果ガスを排出しないゼロエミッション社会を実現するためには、以下のような一歩が必要です。

技術開発・普及

電気化を推進するためには、CO2フリー電源や系統安定化技術、電動輸送機器や充放電設備などの技術開発・普及が不可欠です。これらの技術は、現在も日本や世界で研究・実証が進められており、2030年までに実用化される見込みです。例えば、水素・アンモニア火力発電では、燃料として水素やアンモニアを使用することで、CO2排出量を大幅に削減することができます。水素やアンモニアは、再生可能エネルギーから生成することができるため、火力発電のゼロ・エミッション化に向けた有望な技術です。

政策・制度

技術開発・普及だけではなく、政策・制度も重要です。政府や自治体は、補助金や税制優遇などを通じて、電気化への移行を促進することができます。また、温室効果ガス排出量削減目標やエネルギー基本計画などを策定し、長期的なビジョンを示すことも重要です。日本政府は2020年10月に2050年カーボンニュートラルの宣言をおこないました。これに基づき、2021年7月に第6次エネルギー基本計画を決定しました。この計画では、2030年までに再生可能エネルギーの割合を36~38%に引き上げるとともに、水素・アンモニア火力発電の導入やCCS/CCUS技術の普及などを推進する方針を示しています 。

社会・文化

技術や政策だけではなく、社会・文化も変わっていく必要があります。電気化により、エネルギーの使い方や暮らし方が変わる可能性があります。例えば、電動車の普及により、充電ステーションやカーシェアリングなどのサービスが増えるかもしれません。また、再生可能エネルギーや水素・アンモニアなどの新しいエネルギーに対する理解や受容度を高めることも必要です。


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