ゼロエミッションとその重要性
- ゼロエミッションとは何か?
ゼロエミッションとは、廃棄物の排出(エミッション)をゼロにしようとする考え方です。 この概念は、1994年に国連大学が提唱した「ゼロエミッション構想」の中で示されたもので、日本発のコンセプトとされています。ゼロエミッションは、「もったいない」と感じる日本人的感性に合った考え方と言えるかもしれません。
工場や農場では、必ず廃棄物が発生します。ゼロエミッションは、そこで生じた廃棄物を資源として有効活用しようとする考え方です。廃棄物を資源として有効活用することで、最終処分場における埋め立て量を減少させることができ、排出CO2を減らすことにも繋がります。
ゼロエミッション活動の例として、廃棄生ごみを使ったバイオマス発電やプラスチックリサイクルなどが挙げられます。近年では、ゼロエミッションという言葉は、CO2の排出をゼロにするという広義の意味でも用いられています。2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
- なぜCO2削減が重要なのか?
CO2削減が重要な理由は、気候変動問題の解決に向けて必要だからです。気候変動問題は、地球全体の平均気温が上昇することで、自然環境や生物多様性、人間社会に様々な影響を及ぼす問題です。
気候変動の原因の一つは、化石燃料の燃焼によって大量に排出されるCO2です。CO2は温室効果ガスの一種で、地球から放出される赤外線を吸収して地球の温度を上げる働きをします。CO2の濃度が高くなると、地球の温度が上昇しやすくなります。
気候変動によって、豪雨や猛暑、台風や干ばつなどの異常気象が頻発したり、海面上昇や氷河の融解、生態系の変化などが起こったりします。これらは、農業や水資源、健康や経済などに悪影響を与えるだけでなく、人間の生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われています。
気候変動問題の解決に向けて、2015年にパリ協定が採択されました。パリ協定は、世界共通の長期目標として、世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することを合意しました。
この実現に向けて、世界が取組を進めており、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げているところです。日本もその一つであり、CO2削減に積極的に取り組む必要があります。
CO2削減は、国や自治体、事業者だけの問題ではありません。国民一人ひとりの衣食住や移動といったライフスタイルに起因する温室効果ガスが我が国全体の排出量の約6割を占めるという分析もあります。私たちが、生活の中でちょっとした工夫をしながら、無駄をなくし、環境負荷の低い製品・サービスを選択することで、こうしたライフスタイルに起因するCO2削減に大きく貢献することができます。
二酸化炭素捕捉技術の重要性
- CO2の大気中の濃度と気候変動
CO2は、地球温暖化の主要な原因となる温室効果ガスの一つです。 産業革命以来、人間は石油や石炭などの化石燃料を燃やしてエネルギーを取り出し、経済を成長させてきました。 その結果、大気中のCO2濃度は、産業革命前に比べて40%も増加しました。大気中のCO2濃度が上昇すると、地球の気温も上昇します。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013~2014年)によると、20世紀末頃(1986年~2005年)と比べて、21世紀末(2081年~2100年)の世界の平均気温は、2.6~4.8℃上昇する可能性が高くなります。気温の上昇は、熱波による数万人の死者、大気汚染の悪化による肺がんや循環器系の病気の増加、アレルギーや喘息の患者の増加、異常気象の多発、ダニや蚊を介した伝染病の拡大などをもたらす恐れがあります。このような危機的な状況に対処するためには、CO2を分離・回収し、地中への貯留や、原料として利用するカーボンリサイクルを進めていくことが重要です。
- 捕捉技術のゼロエミッションへの寄与
CCSとは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれます。この技術では、火力発電所などから排出されるCO2を回収し、地下深層や海底に貯留することで、大気中への放出を防ぎます。カーボンリサイクルとは、回収したCO2を化学反応や生物学的プロセスによって有用な物質に変換することで、再利用する技術です。例えば、CO2をメタノールやエチレンなどの有機化合物に変換したり、藻類や微生物によってバイオマスやバイオディーゼルに変換したりすることができます。
CO2分離・回収技術にはさまざまな方法がありますが、その中でも固体吸収法は注目されています。固体吸収法とは、固体材料にCO2を吸着させることで分離・回収する方法です。 液体吸収法と比べてエネルギー消費が少なく、小型化やオンデマンド駆動が可能です。国内外で様々な固体材料が開発されており、その中には外部電位のスイッチひとつでCO2を選択的に吸着・脱離できるものもあります。このような固体吸収法の技術開発は、CO2の分離・回収コストを現状の4,000円程度/t- CO2から2,000円台/t- CO2に低減できる可能性があります。
CO2捕捉技術は、地球温暖化の進行を食い止めるために必要不可欠な技術です。しかし、現在の技術水準ではまだ実用化には至っていません。技術の高度化やコストの低減、社会的な受容性の向上など、さまざまな課題があります。今後も国際的な協力や研究開発を進めていくことが求められます。CO2捕捉技術は、ゼロエミッション社会の実現に向けて、大きな可能性を秘めています。
二酸化炭素捕捉技術の種類
- 物理的捕捉技術
物理的捕捉とは、CO2を物理的な力や性質によって分離・回収する方法です。主な技術としては、以下のようなものがあります。
物理吸収法
高圧でメタノールやポリエチレングリコールなどの液体にCO2を溶解させ、圧力を下げることでCO2を放出する方法や、ゼオライトや活性炭などの吸着剤にCO2を選択的に吸着させ、温度や圧力を変化させることでCO2を放出する方法
膜分離法
セルロースアセテートなどの多孔質の高分子膜にガスを透過させ、透過速度の違いを利用してCO2を分離・回収する方法
深冷分離法
ガスを圧縮液化し、蒸留により他の不純物を除去し、CO2を分離・回収しする方法
電気化学的吸着法
構造を制御した固体酸化物材料に外部から電位を与えることで、CO2をスイッチひとつで選択的に吸着・脱離する方法
一般的に、物理的捕捉の利点は、プロセスが簡単で運転が容易であることや、再生工程で必要な熱量が小さいことです。欠点は、CO2の回収率が低いことや、分離膜や吸着剤が高価で耐久性が低いことです。
- 化学的捕捉技術
化学的捕捉とは、CO2を化学反応によって分離・回収する方法です。主な技術としては、以下のようなものがあります。
化学吸収法
アミンなどのアルカリ性の溶液にCO2を反応吸収させ、加熱することでCO2を放出する方法
固体化学吸収法
リチウムシリケートや酸化亜鉛などの固体にCO2を反応吸収させ、加熱することでCO2を放出する方法
ケミカルループ法
金属酸化物などの固体を用いて、還元反応と酸化反応を繰り返すことでCO2を分離・回収する方法
酸素燃焼法
発電所や工場などで燃料の燃焼によって排出されるCO2を回収するために、支燃ガスに空気ではなく酸素を利用する方法
化学的捕捉の利点は、CO2の回収率が高いことや、低濃度のCO2も分離できることです。欠点は、再生工程で必要な熱量が大きいことや、溶液や固体が劣化しやすいことです。
- 生物的捕捉技術
生物学的捕捉とは、植物や微生物などの生物の光合成や代謝によってCO2を分離・回収する方法です。主な技術としては、以下のようなものがあります。
植林法
樹木や草本などの植物を植えることで、大気中のCO2を光合成によって固定する方法
バイオリアクター法
藻類やシアノバクテリアなどの光合成微生物を用いて、排ガス中のCO2を固定する方法
バイオマス法
植物や微生物などの有機物を燃焼や発酵させることで、CO2を分離・回収する方法
生物学的捕捉の利点は、自然に近いプロセスであることや、副産物として有用な物質が得られることです。欠点は、面積や時間がかかることや、気象条件や環境汚染に影響されることです。
二酸化炭素捕捉技術の具体例
CO2を分離・回収する技術は、さまざまな分野で実用化されつつあります。ここでは、炭酸ガス回収システム、プラントベースのCO2キャプチャー技術、海洋における二酸化炭素吸収の3つの観点から、具体例を紹介します。
- 炭酸ガス回収システム
炭酸ガス回収システムとは、発電所や工場などで排出されるCO2を高濃度に分離・回収するシステムです。主に化学吸収法を用いて、CO2をアミンなどの溶液に反応させて吸収し、加熱して再生する方法が一般的です。
この技術は、日本の三菱重工が世界トップシェアを誇り、世界各地で商用化されています。例えば、カナダのサスカチュワン州にあるバウンダリーダム発電所では、2014年から石炭火力発電所からCO2を回収するプラントが稼働しており、年間100万トンのCO2を回収しています。また、米国テキサス州にあるペトラノバ発電所では、2017年から同様のプラントが稼働しており、年間160万トンのCO2を回収しています。
回収したCO2は、地下に貯留するか、油田やガス田に注入して埋め戻すことで利用されます。これにより、温室効果ガスの排出量を削減するとともに、石油や天然ガスの採掘効率を向上させることができます。
- プラントベースのCO2キャプチャー技術
プラントベースのCO2キャプチャー技術とは、植物や微生物などの生物を用いて、CO2を固定化する技術です。主に光合成や発酵などの生物学的反応を利用して、CO2を有機物やバイオマスなどに変換する方法があります。
この技術は、さまざまな製品や燃料に応用されています。例えば、日本の東レは、藻類からジェット燃料やディーゼル燃料などのバイオ燃料を製造する技術を開発しており、2020年には国内初となる藻類由来ジェット燃料の飛行試験を成功させました。また、日本の九州大学は、シアノバクテリアからエタノールやブタノールなどのバイオエタノールを製造する技術を開発しており、2020年には世界初となるシアノバクテリア由来ブタノールの飛行試験を成功させました。
これらの技術は、CO2を回収するだけでなく、再生可能なエネルギー源として利用することで、化石燃料の消費量を減らすことができます。
- 海洋における二酸化炭素吸収
海洋における二酸化炭素吸収とは、海水中に溶存するCO2を利用する技術です。主に海洋生物や海洋植物などの生態系や、海水中の無機物質などの化学反応を利用して、CO2を固定化する方法があります。
この技術は、海洋環境の保全や資源の開発に応用されています。例えば、東京大学は、海底火山の噴出口から放出されるCO2を利用して、人工的にサンゴ礁を形成する技術を開発しており、2020年には沖縄県恩納村で実証実験を行いました。また、日本のJAMSTECは、海底のマグマや地殻変動などによって生成される天然ガスハイドレート(メタンハイドレート)を探査・開発する技術を開発しており、2013年には世界初となるメタンハイドレートからのメタンガスの採取に成功しました。
これらの技術は、CO2を回収するだけでなく、海洋生態系の回復や新たなエネルギー源として利用することで、地球環境や経済に貢献することができます。
将来の展望と国際的な取り組み
温室効果ガスの排出削減は、地球温暖化対策の最重要課題です。日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。その実現に向けて、CO2を分離・回収し、有効活用するカーボンリサイクル技術が注目されています。
- 次世代のCO2捕捉技術の発展
CO2捕捉技術は、温室効果ガス排出抑制やカーボンリサイクルにおいて重要な役割を果たす技術です。CO2捕捉技術には、液体吸収法や膜分離法などの従来型と、固体吸収法や人工光合成などの次世代型があります。
次世代型のCO2捕捉技術は、従来型に比べてエネルギー消費やコストが低減できる可能性があります。例えば、固体吸収法は、構造を制御した固体酸化物材料に外部から電位を与えることで、CO2をスイッチひとつで選択的に吸着・脱離できることが理論的に明らかになっています。また、人工光合成は、太陽光や水素を利用してCO2を化学品や燃料に変換する技術です。これらの技術は、乾式・小型でオンデマンド駆動が可能なCO2回収・濃縮プロセスを実現できる可能性があります。
- 国際的なゼロエミッションイニシアティブ
ゼロエミッションは、世界的な課題であり、国際的な協力が必要です。日本政府は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、カーボンリサイクルを含む14のキーテクノロジーを掲げました。
日本はまた、カーボンリサイクルの国際連携も推進しています。2019年から日本主催による「カーボンリサイクル産学官国際会議」が開催されており、日豪や日米間で新たな協力覚書が締結されています。さらに、2021年11月には、カーボンリサイクルに関する国際標準化の推進を目的とした「ISO/TC 323 カーボンリサイクル技術委員会」が発足しました。
- 二酸化炭素削減のための協力とコラボレーション
CO2削減のためには、産官学や民間企業などが協力して技術開発や普及活動を行うことが重要です。日本では、カーボンリサイクル関連の研究拠点が全国各地で整備されています。
例えば、東京湾岸エリアでは「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)」が発足し、ゼロエミッション技術のイノベーションエリアを目指しています。また、広島・大崎上島では、高効率な次世代型の石炭火力発電の実証とともに、CO2分離・回収・貯留の実証試験やカーボンリサイクルの実証研究を行っています。さらに、民間主導による「一般社団法人カーボンリサイクルファンド」が設立され、カーボンリサイクルの研究に対する助成や広報・普及活動を行っています。
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